07
 
「魔王になった幼馴染みとは子作りできません!」

プロローグ 告白はタイミングが命です


「真昼、実はずっと話そうと思っていたことがあるんだ」
 幼馴染みの月読から言われた瞬間、私は「来た!」と思った。
 ――子作りの話よね、もちろん。
「な、なに……話って……」
 形ばかり問い返しながらも心のなかでは祝福の鐘が鳴っていた。
 やっと待ち望んでいた展開が来たのねなんて考えて、ともすれば頬が緩んでしまう。
 朝、登校してきてすぐ。昇降口の壁際で手をつかれている、いわゆる壁ドン状態。
 本で読んで知っていたけど、眼鏡をかけた顔を近づけられるとドキドキする。
 月読ってば真剣な顔をすると、かっこいいんだから――どうしよう。
 ついに私も月読と『おつきあい』しちゃうのかな。処女を失って、人妻になっちゃうわけよね。子作りするってことは。
 眼鏡の奥で熱っぽい視線を向けられると、鼓動が高鳴って頬が熱い。たぶん私の顔は真っ赤になっているんだろうな。
 ほかの生徒が登校してくるときに「ひゅーひゅーおふたりさん、朝から熱いねぇ」なんてひやかしてくるのは、ひとまず無視。朝のこの時間に、昇降口でする話ではないと思うけど、ずっと話をするタイミングを待っていたから、拒絶するという選択肢は私にはなかった。
「こ、子作りの話ならもちろん、いいわよ? 私だって月読とって思っていたし……でもいまこの場所で話すのはちょっと、ね――?」
 もうすこし雰囲気がいい場所を選んで欲しかったな。
 なんて思うのはぜいたくだろうか。だってこれから試験があるし、みんなに見られてるし。
 ま、まぁいいんだけど? 月読のことだから、そこまで気が回らなかったのかもしれないし、幼馴染みの私としては大目に見てあげないこともないんだけど?
 月読の黒髪がさらりと流れるのがかっこよくて、思わず見蕩れてしまうから許してあげるわけじゃないんだからね!?
 なんてドキドキしている私に、月読が口を開く。
「真昼、『子作り』ってなんの話? そうじゃなくて僕、追試なんだ! 真昼、一生のお願い。魔法歴史学のノートを見せて!」
「は? え……って追試!?」
 拝み倒すように手を合わせて頭を下げられ、私は一瞬なにを言われたのかわからなかった。
「僕、今度こそ落第するかもしれない――だから、さ。真昼おねーさま、お願い!」
 あわあわと言い訳しながら頭を下げる月読は、いつもののほほん眼鏡の月読で、さっきかっこいいなんて思って、きゅんとさせられた私のときめきを返せと言いたい。
 私は震える拳を握りしめて叫んだ。
「月読のバカー!! 何回、追試を食らったら気がすむのよー!!」

   ‡    ‡    ‡

 私の名前は真昼・ナナカマド。学兵です。
 学兵ってなにかというと、また修学中の身でありながら、戦争に出撃する兵士のことです。
 白砂王立第一魔法学校、高等部二年生。
 追試だからノートを見せてって言ってきた黒髪眼鏡の少年は幼馴染みの月読・フユモリ。
 同じく白砂王立第一魔法学校に通う普通の高等部二年生。
 私も月読も一応超常現象たる魔法が使える――いわゆる魔法使いだったりします。
 白砂王国には昔からすこしばかり、この超常現象たる魔法を使える人がいました。
 これでも私は、魔法学校では一応、優等生で通っていたんですよ?
 戦争がはじまるまでは……ですけど。
 私の目標は魔導士の資格を取って就職すること。あ、もちろん結婚して素敵な旦那さまが欲しいとかそういうのもありますが、まずは安定した生活が一番ですものね!
 魔法学校での成績は二百人中常に十番以内をキープ。
 先生の面倒な用事も断らず、内申もバッチリです!
 国立魔法大学への推薦も間違いないし、目指せ、公務員――白砂王国魔法省! だったんだけど……。
 その順風満帆の人生を邁進していたところで、戦争ですよ。
 樹海魔族が攻めてきたのです。魔法歴史や魔法情報学で勉強するだけじゃなくて、本物の樹海魔族をこの目で見る日がくるなんて――正直、思ってもみませんでした。
 魔王復活!? なにそれって感じです。
 けれども樹海魔族との戦いのために、あっという間に全魔法使いが召集され、その数が足りないとなると、今度は魔法学校の生徒も学兵として戦争に投入されることになりました。
 いま、試験を受けに行こうかという瞬間にも、出撃要請のサイレンが鳴ったらと思うと気が気じゃありません。
 え? 戦争ってなんで突然?
 私の生活は一変し、学校でいい成績をとるより、もっと難しい問題が迫ってきました。
 
 ――私も月読も、この戦争で、最後まで生き残れるのかな?



第一章 出撃待機は嵐の前の静けさ


「だーかーらー、昇降口でいきなりお願いしたのは悪かったってば、真昼」
「あたりまえでしょう!? 今度やったら、もう二度とノートを見せてあげないからね!?」
 ツンと鼻を上向けると、目の端で月読がしゅんと意気消沈したのが見えた。
 まるで叱られた犬がぺたんと耳を垂れたみたい。月読のこういうところはかわいいと思うし、嫌いじゃないけど、なんだか私が強く言いすぎたみたいでちょっとバツが悪い。
 でもね、あんなふうに腕に囲いこまれて間近で真剣な顔をするなんて――。もっとときめく話をされるんじゃないかって期待して当然でしょう?
 私だけが悪いわけじゃないと思う。思うんだけど……。
「真昼ぅ――ごめんってば」
 情けない声で謝られながら制服の端を掴まれると、弱い。
 上目遣いに潤んだ瞳を向けてくる月読ってば、庇護欲をそそるかわいさなんだもの。怒ってる自分がすごくいじわるに思えてくるんだ。
 うぅ……この卑怯ものめぇぇぇっ!
「しょ、しょうがないなぁ……月読ってば、いっつも人をあてにして――私がいないとダメなんだから!」
 ノートを見せてあげるから感謝しなさいよね! って腕を組んでお姉さんぶる私に、月読は
ばっと垂れていた耳を立てて、しっぽを振った。じゃなくて、表情を一変させて喜んだ。
「うん、真昼。ありがとう! やっぱり真昼は頼りになるよね!」
 眼鏡の奥で目を細めてうれしそうに言われると、私だって無下にはできない。
 ――あーあ……子作りの話はまた今度かなぁ……。
 ため息を吐きながらも、私は月読のために自習室の予約をとってやった。
 毎回落第すれすれの月読が、ノートを見せるだけで追試を乗り切れるとは思えない。私が勉強を教えてあげないとね!
 なんだかんだ言って、月読の面倒を見てあげるのは嫌いじゃないのだ。まぁ、真昼おねーさまに任せなさい! なんてちょっといい気になっているところにキンコーンカーンと予鈴の音が鳴った。 
「真昼ー! 急がないと試験が始まっちゃうよ!」
 月読に急かされて、私は慌てて魔法実技演習棟へと駆け出す。
 胸元の臙脂の飾り紐を揺らし、制服の短いスカートが翻る。
 襟やボタン留めに金の雲流が意匠されている制服は、魔法学校の生徒である証。
 男子は白地に浅葱色と濃紺色、女子は白地に萌葱色と臙脂色がところどころにあしらってあり、凜々しさと清潔感が漂う。腰の飾りについたリボンが揺れるのもくすぐったい。
 魔法学校の制服は子どものころからの憧れだったから、入学が決まったときはうれしくて、できたばかりの制服を着て、隣の月読の家まで見せに行ったっけ。懐かしい。
 金の雲流は白砂王国第一魔法学校の校章で、校舎のあちこちに浮き彫りや盾の形で見ることができる。実は魔力を秘めた図形で、校舎を防御しているらしい。
 同じように制服自体にも防御魔法が施され、魔法攻撃に対して生徒の肉体を守る機能を備えているのだとか。
 私が住むここ――白砂王国は白砂大陸中心部に位置する豊かな国だ。
 高い山脈から絶え間なく流れる水に肥沃な土地は、誰の目から見ても魅力的なのだろう。  その昔、白砂大陸に棲んでいたヒト族は危機に瀕していた。
 魔王が率いる樹海魔族に襲われ、人間が次から次へと殺されたのだ。
 異形の姿をした樹海魔族は強い魔法能力を持っていて、普通の武器では歯が立たない。そんな樹海魔族と闘う兵士を養成するために魔法学校が創設された。
 私が通う白砂王立第一魔法学校は国内でも最初に創設された由緒正しき魔法学校なのだ。エッヘン。
 もっとも古いのは校舎ばかりで、通う生徒のほうは伝統なんて大して気にしてないのが実情だけどね。
「おはよう、真昼。相変わらず旦那といっしょに登校とは……朝から見せつけてくれるわね」
 廊下を歩いているうちに、寮で同室のユカリに追いつかれていた。
「ほんとほんと。試験なのにイチャつかれてても困るわぁ」
 同じく友だちのマサゴがひやかすように相槌を打つ。まったくもう……ふたりとも私と月読をからかうのを毎日の楽しみにしてるところがあって、ときどき困る。
「誰が旦那よ! いいじゃない別に……幼馴染みなんだから……」
 頬が熱いのをもてあますように、もごもごと苦しい言い訳をする。さっきも子作りの話をし損ねたばかりで、私の心のデリケートなところなんだから、友だちならすこしぐらい気遣ってよね!? なんて、ユカリとマサゴを軽く睨みつけていると、空気を読まない人がひとり。
「あ、ぼくは別に構わないよ。旦那で」
 ちょっ……天然んんんっ! 月読ってば、なにを言っちゃってるの!?
 にこにこと邪気のない笑顔をしている月読は、言葉の意味をわかっているのだろうか……。正直、先が思いやられる。はぁ……。
 だって、私と月読はただの幼馴染みで、まだつきあってもいないんだよ?
 子作りまでの道のりは遠い……。
 本当に、こののほほん眼鏡を見ていると、戦争で生き残れるのか、不安になるくらいなんだよね。
 かつて異形の樹海魔族を率いた魔王に襲われ、ヒト族は絶滅の危機に瀕した。
 魔王は六枚の黒い翼を持つ有翼ヒト型の異形で、天空を自在に飛び回り、ほかに類を見ないほど広範囲に影響する魔法を行使できたという。
 けれどもいまの白砂王族のご先祖が立ちあがり、死力を尽くして魔王を倒したのだ。
 もちろん、これは過去の魔王の話。
 白砂王族が国を拓いた千年以上も昔の話。
 ――で終われたら、どんなにめでたいことか。
 魔王はなんと、白砂王族に倒されるときに、『ヨミガエリ』の秘術を施したのだという。
『俺は何度でもよみがえる。よみがえってこの地に君臨し、白砂王族を、この地に住むものを皆滅ぼしてやる――!』
 初代魔王は死ぬ直前にそんな呪いのような言葉を残した。
 事実、過去に五度、魔王はよみがえった。
 だからなのだろう。戦争が始まって以来、魔王が復活するかもしれないという噂が、白砂王国のなかではまことしやかに流れていたのだった。
 ちょっと、どこの誰が流した噂か知らないけど、やめてよね!?
 魔王なんてお目にかかりたいわけがないじゃない! ぶるぶる……想像しただけで体が震えちゃう。
 そんな魔族の襲来や魔王復活に脅える戦下であっても、魔法学校は、いま試験期間中。
 しかも今日の試験は私が苦手な魔法実技だ。
 魔法実技演習棟という、結界に守られて、室内で魔法を使っても外に影響がない特殊な建物で行われる。
 魔法実技演習棟の中心に立ち、
「……できるできる。私はできるんだから」
 そんな自己暗示で集中力を高めると、まずは炎を生みだそうと手甲を嵌めた右手を振りかざした。
 濃赤の魔法石がついた手甲は攻撃魔法を使いやすくするためのもので、手首を保護するサポーターによく似ている。普段は身につけていないが、私のように精霊魔法が苦手なものには、試験での使用が許可されていた。
「我は願う。炎の精霊よ、灯明となりて現れたまえ」
 呪文を唱えると、私の目の前に爪の先に灯すような炎が現れ、だんだんと大きくなる。
 たいまつの炎くらいまで大きくなったところで、教官が「よし」と合格を告げた。
 生活する上で使うことが多い炎の魔法は、まだ馴染みがあるから、精霊魔法のなかではマシなほうだ。
 はっきり言って、炎を出すとか雷を打つとか、精霊魔法の攻撃魔法、苦手なんだよね……。
 ひとまずほっと胸を撫で下ろしながら、次の防御障壁の呪文を口にする。
「我は願う。一重二重に我を守り給え……加護障壁」
 これは攻撃魔法ではないし、まだ得意な魔法だった。
 ピィンッっと薄いガラスを弾いたような澄んだ音がして、魔法が成立する。
 すると私が自分の周りに作った障壁に向かって、教官が炎を繰り出した。
「きゃああっ!?」
 ちょっ、待っ……ぶ、ぶつかる……!
 私が作った炎とは比べものにならない、まるで小さな炎の龍だ。口を開けて、うねるように炎の龍が襲ってくるなんて。怖い! 殺される! 
 怯んで逃げ出したかったけれど、足がすくんで動けなかった。やられる――そう思って目を閉じたところで、バシン、と大きな音を立てて炎の龍が障壁に衝突した。
 あ、よ、よかった……。ほかの人たちが試験を受けているときに何度も聞こえていた『バシン』という音はこれかと納得する。
 私の弱腰とは反対に、障壁は炎の龍を完全に退けてくれた。
 えらい! 自分で張っておいてなんだけど!
 助かったとばかりに肩の力を抜いたところで、先生から無情な宣告がくだされた。
「防御障壁はよし。炎もいいが……真昼・ナナカマド。雷と礫は限りなく不可に近い可だな」
「う……そ、そんなぁ……!」
 わ、私の成績がぁ!!
 よろれりと倒けつ転び出るように私は魔法実技演習室から出ていった。
 黒髪を留める桜花の髪飾りが、慰めるかのようにしゃらりと音を立てるけど、ショックなことには変わりない。
 うぅぅ……『優』とまでは言わないけど、せめて『良』が欲しかったよぉぉぉ。
 雷の魔法はなかなか安定せず、小さな光を生みだすのにも苦労したし、礫飛ばしなんて踏み固められた土床がわずかに盛りあがったのが、人差し指くらい飛んだだけ。
 そんなありさまでは確かに『限りなく不可に近い可』だって、お情けでもらったに違いない。でもこれまで優等生で通っていた私は、『限りなく不可に近い可』なんてとったことがなくて、しおしおとうなだれるしかなかった。
 ――これも全部戦争のせいだぁぁ……滅びろ、戦争!
 心のなかで悪態を吐いたところで、評価が変わるわけがない。
 戦争がはじまり、攻撃魔法の実技評価が重視されるようになったせいで、このところ私の成績は下降気味だ。努力して維持してきた成績がぁぁぁ!
 泣きたい。泣いてもどうにもならないのはわかっているけど。
「はぁぁ……だから魔法実技なんて嫌いなのよ……」
 入れ違いで試験に向かった月読はどうしただろう?
 ひとしきり頭を抱えたあとでふと思い出した瞬間、ズガンとものすごい音を響かせて、魔法実習棟の建物が大きく揺れた。
「うわぁ……こ、これ……つ、月読かなぁ……」
 実技試験を行う魔法実習棟の中心は、魔法が外に漏れないように幾重にも結界が張り巡らされている。その結界の力を揺るがすほどの魔法が、なかで使われたということなのだろう。
「あいかわらず……攻撃魔法だけが得意なんだから」
 それがどうしてあんなにペーパーテストは苦手なのかなぁ。
 私だって攻撃魔法が苦手だから、あまり人のことは言えないんだけど。
 生まれもっての素養が必要な攻撃魔法と比べると、ペーパーテストなんて努力次第でもうすこしどうにかなる気がしてしまう。
 ――まぁ、最近では攻撃魔法ができるからこその問題もあるんだけど……。
 ふぅっとため息を吐いたところで魔法実習室の扉が開き、黒髪眼鏡の少年が顔をのぞかせた。
「真昼、待っててくれたんだ?」
「と、当然でしょう? 勉強を教えてあげるって言ったじゃない……」
 しっぽを振って駆け寄ってくる月読に、私はすこしばかり唇を尖らせながら答える。
 どうにか試験の及第点がとれた私は、もちろん先に自習室に行っていてもよかったのだけれど、万が一月読が忘れていたらまずいと思って待っていてあげたのだ。
「うんっ……真昼、お願いっ! 魔法歴史、真昼は得意だもんね……真昼に教えてもらえれば百人力だよ!」
 月読に手を合わせて頭を下げられると、まぁ悪い気はしない。
「まったくもう……月読ってば……」
 かわいいけど、ずるい。朝だって、私が子作りのことかと誤解したのは無視だったくせに、こういうときだけは調子いいんだから。半ば呆れつつも、お願いされるのにつん、と鼻を横向けて、偉そうに腕を組んで恩着せがましく言う。
「教えてあげてもいいけど、これは貸しだからね? あとで代わりに私のお願いも聞いてよね?」
 別に月読のお願いを聞くのはいいんだけど、一方的に聞いてばかりというのは癪だもの。
 ――幼馴染みだからって、指導料を請求するのは当然です!
 ちらりと黒髪眼鏡の少年の反応をうかがうと、忠犬もとい月読は見えないしっぽを振りながら、即答した。
「もちろんだよ! パフェを奢るのでも遊びに行くのでも、真昼のお願い、なんでも聞くから!」
 それが私にとっての願いだと信じ切っているかのようにいきおいよく言われて、ちょっとだけ私の笑顔が固まった。パフェも遊びに行くのも嫌いじゃないけど、そうじゃなくて。
 ――子作りだってば!
 そう言いたい。でも私だけがそんなことを考えてるのかと思うと言えない。がっくりとうなだれると、月読は私が苦手な攻撃魔法を使ったせいで疲れているのだと誤解したらしい。
「真昼、大丈夫? 勉強を教えてくれるくらいの、余力はあるよね……あ、そうだ。さっそくパフェ食べに行こうよ。きっと元気になるよ……ほら」
「うーん……勉強にパフェ……」
 一瞬、どうしようかなぁと思ったけれど、月読に手を掴まれて、引っ張り起こされると、まぁいいかという気になった。我ながら現金だ。
 月読の面倒を見てあげないとと思いながらも、月読に甘やかされると口元が緩んでしまう。
「学食、もう開いているかな? きなこ黒蜜パフェ食べたい!」
 子どものころからの癖で月読の服の端を掴みながら、心を決めた。
 戦争がはじまって嗜好品は贅沢品になりつつあるが、いまのところ、被害はごく一部で、白砂王国の主な生産地はまだ普通に動いている。特に兵舎と魔法学校には、士気に関わるからと砂糖なども優先的に回ってきていた。命を賭けて戦っているささやかな代償だ。
 パフェを食べに帰ろうとしたところで、後ろから教官の声がかかった。
「帰るのはいいが、月読・フユモリ。おまえは魔法歴史だけじゃなく、魔法情報学も追試だぞ。ちゃんと勉強しておけよ」
「ええっ、二科目も!? うわぁ……真昼、ごめん。魔法情報学も教えてくれる……よね?」
 さすがにショックを受けた様子で私に頼みこむ月読の顔はかわいらしい。
 その顔は弱いんだってば!
 頬が熱くなり、一瞬言葉に詰まった。さっきは、教科書にかじりついて私の話題を無視したくせに、こういうときだけは調子いいんだから!
 半ば呆れつつも、お願いされるのに悪い気はしない。ツンと鼻を上向け、偉そうに腕を組んだ私は恩着せがましく言う。
「し、しょうがないなぁ。もぅ……本当に月読はわたしがいないとダメなんだから」
「うん、真昼のことは頼りにしてるよ」
 かわいい眼鏡少年からかけられる甘えた声。
 うん、まぁ……いいか。私も月読に用があるし、朝、追試で勉強見てあげるために自習室をとっておいたしね!
 実を言うと、月読は子どものころからかわいらしくて華奢だったから、私はずっと女の子だと思っていた。子ども心になんとなく守ってあげなくちゃと思っていたせいで、いまも保護者めいた意識が残っているのかもしれない。
 三つ子の魂百まで――そんな昔ながらのことわざが頭に浮かぶ。月読と会ったのは五才のときだけれど、小さいころからの刷りこみというのは、簡単に消えないのだろう。
「まぁ、真昼おねーさまに任せておきなさい!」
 私はついさっきまで魔法実技の評価に落ちこんでいたことなど忘れて、自慢げに胸を張って答えた。

 それはいつものやりとり。
 変わらない幼馴染みの関係。
 そんな日々がずっと続くのだと、そのときの私は信じていたのだった。

本文抜粋「魔王になった幼馴染みとは子作りできません!」本文抜粋

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